地産地消の再生可能エネルギーを、地域とともに進めるために

2026.3.18

「再エネを増やす必要がある」

ニュースや政策の議論の中で、私たちはこの言葉を繰り返し耳にします。しかし、なぜ“いま”なのでしょうか。なぜ、これほどまでに再生可能エネルギーが求められているのでしょうか。

今回のブログ記事では、改めて『なぜ再エネが必要なのか』『なぜ地域で再エネを増やすことが良いとされるのか』について記します。

1点目は気候変動のリスクです。気候変動は、すでに私たちの暮らしや経済に具体的な損失をもたらし始めています。世界では、気候変動がもたらす大雨、熱波など異常気象により、住めなくなる、健康被害のリスクが高まるなど様々な損失が起きています。アジア投資家グループ(AIGCC,2024)の分析では、現在の政策が続いた場合、日本は2050年までに累計約952兆円もの経済損失を被る可能性があると試算されています(1)

これは年間GDPの約1割に相当する規模です。また、G20 Climate Risk Atlasも、2100年には日本のGDPが最大10%以上押し下げられる可能性を指摘しています。気候変動は、遠い未来の問題ではなく、経済そのものの安定性を揺るがすリスクなのです(2)

2点目にエネルギー安全保障の面です。日本のエネルギー構造に大きな課題があります。石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料の多くを海外から輸入しており、その金額は年間およそ30兆円規模にのぼります。2022年には燃料価格の高騰などもあり、34兆円に達しました3。これは国の税収の約4割に匹敵する額です。私たちが日々支払う電気代の一部が、地域に循環するのではなく、海外へと流出しているという現実があります。

「地産地消型」の再生可能エネルギーには大きな意味があります。地域で発電し、地域で使う。そうすることで、これまで外に流れていたお金を地域内の投資や雇用、事業機会へと転換することができます。小川・ラウパッハ(2018)、諸富(2019)の研究(4.5)でも、再エネ事業は税収や雇用、付加価値を地域にもたらすことが指摘されています。再生可能エネルギーは、環境政策であると同時に、地域経済を支える産業政策でもあるのです。

これらに重要なのは、「便益」の考え方です。再エネの価値は、発電コストの安さだけでは測れません。安田(2019;2024)(6.7)が指摘するように、エネルギー安全保障の強化、大気汚染の抑制、健康被害の軽減、災害時のレジリエンス向上など、社会全体に広がる多面的な価値があります。SDGs目標7が掲げる「すべての人に安価で信頼できる持続可能なエネルギーを」という理念も、単なる理想論ではなく、地域の暮らしの質を高める基盤づくりを意味しています。

しかし、再エネを増やせば自動的に地域が豊かになるわけではありません。ここで重要になるのが「社会的受容性」です。丸山(2014)(8)が整理するように、再エネの受容性は、社会政策、地域コミュニティ、市場の3つの側面から成り立っています。とりわけ立地地域との関係は決定的です。情報が不透明であったり、利益配分が見えなかったりすれば、不信感はすぐに広がります。

だからこそ、いま求められているのは、単なる開発事業者ではなく「コミュニケーター」の存在です。地域にとっての意味を丁寧に伝え、対話を重ね、合意形成のプロセスを共有する人。地域のみなさんと一緒に、「地域のエネルギーを、地域で共につくる」という未来像を描ける人です。

長野県は、国の2030年46%削減目標を上回る60%削減を掲げ、地域主体の再エネプロジェクトを先駆的に進めてきました(9)。これは技術の問題というより、「地域とともに進める」という姿勢の積み重ねの結果です。

地産地消の再生可能エネルギーは、気候対策であり、経済戦略であり、地域づくりの手段でもあります。そしてその実現を左右するのは、人と人との信頼です。私たちは、設備をつくる前に、関係をつくる。そんなコミュニケーターとして、地域とともにエネルギーの未来を描いていきたいと考えています。

参考文献

(1)Asia Investor Group on Climate Change. (2024年12月17日). Climate damage and physical impacts likely to wipe out USD 9.2 trillion from Japan’s economy if current global policy trajectories continue. https://aigcc.net/climate-damage-and-physical-impacts-likely-to-wipe-out-usd-9-2-trillion-from-japans-economy-if-current-global-policy-trajectories-continue/


(2)G20 Climate Risk Atlas. (n.d.). Japan. Retrieved January 6, 2026, from https://www.g20climaterisks.org/japan/

(3)IGES(地球環境戦略研究機関). (2025). Energy security and energy transition in Japan(Hajime Takizawa). https://www.iges.or.jp/en/publication_documents/pub/presentation/en/14119/Energy+Security+and+Energy+Transition+in+Japan+by+Hajime+Takizawa.pdf

(4)小川祐貴・ラウパッハ=スミヤ ヨーク(2018)「再生可能エネルギーが地域にもたらす経済効果―バリュー・チェーン分析を適用したケーススタディ―」『環境科学会誌』31(1):34–42.

(5)諸富徹(2019)地域経済循環とエネルギー自治. 諸富徹(編)『入門 地域付加価値創造分析―再生可能エネルギーが促す地域経済循環』pp.1–12日本評論社.


(6)安田陽 (2019). 世界の再生可能エネルギーと電力システム:経済・政策編. インプレス.

(7)安田陽(2024)『再エネ9割の未来 脱炭素達成のシナリオと科学的根拠』山と渓谷社.

(8)丸山康司(2014)『再生可能エネルギーの社会化-社会的受容性から問いなおす』有斐閣.

(9)長野県 (2022). 長野県ゼロカーボン戦略―2050ゼロカーボン実現を目指した2030年度までのアクション―.